物理チャレンジ(フィジクスライブ)

倉敷から帰ると、宿舎でフィジクスライブというものが行われる。
僕ら八王子組(IPhO日本代表選抜合宿@八王子の参加者)の最も楽しみにしていた企画。

フィジックスライブとは初回の物理チャレンジから行われている企画である。
まずは大会本部でチャレンジ副委員長N先生から伺った裏話を。

国際物理オリンピック(IPhO)では、受験者は試験以外にエクスカーションというものがある。
具体的にははその国の観光をしたり、他国の選手との親睦を深めるという目的でゲームなどをしたり、有名な物理学者などの講演を聞いたりするものだ。
そのエクスカーションを真似て物理チャレンジも試験以外に講演や親睦会などが開催される。

初回の物理チャレンジ@岡山では講演会を3つ用意していたらしい。
しかし、そのうちのひとつの先生が物理チャレンジに参加できないとのことで、そこだけ予定がぽっかり空いてしまった。とは言っても大会直前の事だったらしく、新たに別の先生に講演会を依頼するわけにはいかない。
そんなとき、委員会で発案されたのが「フィジクスライブ」だったらしい。

フィジクスライブとは、現役の物理学者や物理を専攻とする人が高校生に自分の研究をわかりやすく説明したり、実験を見せたりするというもの。
行ったことはないが、たぶん物理学会でもこのようなパネル展示をしているのではないかと思う。

初回のときには、或る先生は研究室から実験装置まで持ってきてしまったらしい。(走査型電子顕微鏡だったっけな?記憶が曖昧。。)
しかし、参加者には盛況だった。

なにせ、現役で物理(Physics)をやっている先輩たちが自分の目の前で生き生きと(livelyとも言うべき?)、物理が大好きな中高生に物理の面白さを語るのである。
普段見ることのできない物理の先輩と間近で、しかも何人もと話すことができる上、高校物理と全く違う物理を味わえるのだ。

僕が初めて参加したのは第二回物理チャレンジからだ。
最初、大会の案内を読んだとき、「フィジクスライブってなんだろう?講義でもやるのかな?」などと考え、どのような企画なのか全く分からなかったのだが、いざ参加してみるとあまりのすごさに圧倒された。
周りの学生も同じように感動している様子を察せた。
企画のまわりでは、いろんな先生にあれこれと質問する。
そうこうしているうちに、先生も交えた参加者同士の議論が始まったりもする。
その場で初めて会う人ばかりだというのに。。

フィジクスライブで一緒に議論した人とは結局その後にまた話す機会があったりして、それがきっかけで友人になれた。(東大で一つ上のS.Oさんともここで議論して、結局知り合いになった一人である。)

第三回物理チャレンジ(@筑波)でのフィジクスライブも面白かった。
岡山大会の時は宿舎でフィジクスライブが開催されたが、筑波大会では宿舎でなく筑波大学でフィジクスライブが開催された。
だから、直接研究室見学という企画もあった。
研究室見学の場合、準備する側は慣れているから楽かもしれないが、やはり大学の先生と議論、という機会が得られない点、そして場所が宿舎でないため、岡山大会の時のように夕食後も会場に戻って先生と再び夜中まで議論、ということができなかったことなどが、少し残念だった。
来年は再び筑波大会になるので、この点は考慮すべきだと思う。

しかしなんだかんだ言っても、これまで僕の参加した二回にわたる物理チャレンジの中で一番印象的で面白かった企画は迷うことなくフィジクスライブと言える。

そんなフィジクスライブに、今年の物理チャレンジは発表者側になって参加することになったのである。
相手は中高生といえども、ほとんど年齢が近い。
だからこそ八王子組のメンバーも気合いを入れて準備をしたわけだ。
テーマは偏光。(あとD.NとS.TはIPhOの経験談を話した。)以前の日記にテーマの羅列がされている。
興味のある人は参照してください。

今年のフィジクスライブは、他にも岡山大学院の学生スタッフの方々が、4人ほど大学生活、大学院生活、自分の研究についての講演会をされるなど、学生スタッフが企画を出す数が多く、ひょっとすると過去四年で一番大規模なフィジクスライブだったのではないだろうか。
僕たちが取り組んだ偏光の企画にも何人もの高校生(や先生とスタッフ)が見に来てくれて、さまざまな議論をしながら盛り上がった。

散乱光の実験では、光源に用いたレーザーポインタがもともと偏光していたことに気付かないで議論していたら、実験がうまくいかず、困ったこともあった。
すると他の先生方がすかさずMyレーザーポインタを鞄から取り出して一緒に実験したりもした(笑)が、やはりレーザーポインタの半導体レーザーは偏光してしまうらしい。
(準備段階ではHe-Neレーザーというものを使っていたので、光源自身は偏光していなかった)

予想以上の聴衆の食いつきに、全員に説明しきれない(説明する人は7人もいたのに。。。)「うれしい」状況だった。
次回以降、説明をうまく流していくやり方を検討しなければいけないことに気付かされた。

ところで、7人と言ったが、実は2日目から八王子組が一人増えた。
八王子組同期のT.Tくんだ。
京大の一回生は期末試験が4日まであったため、そのまま物理チャレンジに直行したようだ。
しかし、何を思ったのかはじめに向かった先は閑谷(第一回、第二回の開催場所)。
今年は、同じ岡山県だが開催場所は倉敷。

彼は閑谷に着いてからその過ちに気づいたらしく、急いで倉敷に折り返したようだ(笑)
宿舎に到着したのは結局他の生徒が倉敷観光から帰ってくるわずか前だったらしい。

それでも彼は30分くらい偏光の実験の内容を説明したら殆ど飲み込んでくれたようで(これはすごい)、一緒に説明&議論に参加してくれた。
僕たちは去年のIPhO選抜合宿(2007年3月)以来久々に会ったわけで、いろいろおしゃべりをしたかったわけだが。でも、まずはフィジクスライブのことを精いっぱい頑張った。
もちろん、夕飯の後も議論は続き、本当に充実した行事だった。

フィジクスライブの後にスタッフ会議があったのだが、そこで学生のフィジクスライブの反応を班長が発表しあったところ、圧倒的に岡山光量子科学研究所(2020年8月追記:残念ながらこちらの研究所は2016年度末に廃止となってしまったそうです。)のN先生の展示が人気だったらしい。
悔しいとは思ったものの、確かに彼の展示は本当に面白かった。

午前中、理論試験が開催されている間に大会本部でN先生から直接展示内容を見せてもらい、これは面白い、と学生スタッフが悔しがっていた(?)わけだ。
彼は同時に二つのテーマを発表した。
ひとつは、ブラックホールに巻き込まれる光について。
相対論の内容もわかりやすく説明していたのがすごいと思った。
二つ目はカオス系(複雑系)について。
僕はカオスについてしっかり勉強したことがないのでよくわからなかったが、
東大(駒場)で現代物理学という講座  (学習院T先生の授業。主にカオス
についての講義らしい)を履修した何人かは、なるほど、とうなずいていた。

僕でもわかったこととしては、PCの画面をカメラで撮影して、その映像を再びPCの画面で表示するというもの。
単純な合わせ鏡と違い、PCでやると様々な電気的なノイズ(雑音)が入り込むため、そのノイズが増幅されて、現実の映像と関係のないパターンが突然画面に表示される。というもの。
つまり、わずかなノイズがあるがために、ノイズがない場合に予想される結果とはまるっきり異なる結果が生じてしまうこと、なのである。
これを議論するのが複雑系とか非線形な力学とか呼ばれる学問なのだろう。(←勉強したことがないのであまり正確ではないかもしれないが。。。)

さて、議論には盛り上がったのは良かったが、フィジクスライブの会場を出て、中高生が交流の場として用いる談話室にひょっこり遊びに行ってみたら、中高生の輪に取り込まれた。(笑)
すぐに抜け出そうと思ったものの、話が盛り上がり抜け出せない。(笑)
やはり、世の中は複雑系だなぁと実感。(つまり将来が予測できないということ。)

結局その後、二日目から物理チャレンジに来たT.Tくんとお風呂に入ったのは午前2時を過ぎてからのことだった。
そういえば、D.Nくんともお風呂に入るはずだったが、談話室にいることを告げ忘れたので、先に一人でお風呂に入ってしまったらしい。
悔しながらの彼のコメント
「大浴場、ひとりで独占出来て爽快だった」

あー申し訳ない。ちゃんと談話室に行ったことを連絡してあげればよかったなあ…。

その後、二日目の夜は大会本部で寝た。
起床6時。
体が痛かったのと、やはり部屋で寝た振りしないと班員に迷惑かけるかなぁとおもい、意味もなく部屋に行く。
眠気をこらえつつ、二度寝しないようにごろごろしながら起床時刻、6時半を迎える。
朝にD.Nくん(彼とともに班長をしている)にそのことを話したら、笑われた(笑)

眠気がピークを越すと、人間わけわからないことをやるのだと実感した瞬間でもあった。