重力波観測装置

今日は三鷹にある国立天文台三鷹キャンパスに行った。
駒場の宇宙科学Ⅱという講義の受講者のうち希望者だけを対象とした施設見学会だったが、僕は昔から宇宙開発や観測などに興味があったので、この見学会に参加した。
小学生の頃に、野辺山にある国立天文台の45mの世界最大級の電波望遠鏡を見学したことがあるが、当時の僕の知識だと電波なんかで星が観測できるわけない、と思ってばかりいた。
なので、いま記憶に残っていることとすればパラボラの大きさと、本当に観測しているのだろうか?という疑いを持っていた、という恥ずかしい記憶だけだ。
さてさて、他には昔には内之浦射場(鹿児島)や、筑波宇宙センターにいったかな。
たぶんこれらは過去の日記に記録されているはずなので略。。(笑)

先ず講義を受け持っている関井先生という方の専門とする日震学研究室での日震学研究についての説明や、その研究の観測装置として利用する「ひので」という観測衛星の話を伺った。
(日震学とは、地球の内部構造を地震波を用いて解析するように、太陽表面を伝わる周期的な波を分析することで太陽内部を調べよう、という研究)
ひのでという観測衛星は2006年に打ち上げられた衛星で、太陽を様々な波長から高解像度のカメラで動画を撮影することで、ある太陽表面での出来事を様々なアプローチで解析しているらしい。

  そういえば、全く関係ないのだが、その説明の際に先生は、
  「太陽の表面はグラニュールという味噌汁が煮立った時のような構造をしている。」
  と表現したのだが、「味噌汁を煮立せてはマズイ」のでは?(笑)と思った。
  しかし実際にグラニュールをみてみると、確かにそのとおりだった。
  日本人としては、味噌汁を沸騰させたくないが、表現の上では仕方ない。というわけか。。。

次にすばる望遠鏡で研究されている、児玉先生の話を伺った。
すばるの話も面白かったが、それ以上に僕が驚いた天文物理のお話を。(マニアックかも?)
今、この宇宙には4つの力のみが存在すると考えられている。
重力、電磁気力、強い相互作用、弱い相互作用、の4つである。
前者二つは無限遠点まで力が及ぶのに対して、後ろ二つの相互作用は、原子核の中でしか作用しない、本当に近い粒子同士に働く力である。

今、宇宙の進化の過程のシミュレーションを行うとする。
このとき、複数の力についての方程式を立てると計算量が膨大になるので大変である。
このとき何の力に注目して計算すればよいだろうか?
もちろん、重力と電磁気力となるが、どちらか、と言われたらどちらを選択するだろうか。

物理の世界では、重力よりも電磁気力のほうが桁違いに引力の大きさが大きい(引力の式に現れる比例定数が電磁気力のほうがとても大きい)ので、僕は、電磁気力に重点を置くべきではないか、と考えたのであったが、間違えであった。
電磁気力は+と+や-と-の間では斥力を及ぼしあうが、一方+-の間では引力を及ぼしあう。
重力には負の質量というものがない(と考えられる)ので、斥力は存在せず、引力だけを及ぼしあう。
宇宙スケールでの物体の運動を考えるときには、電磁気力の作用は無視できることになる。
なぜなら、+の粒子と-の粒子はほぼ一様に分散していると考えられ、星や銀河同士ではそれらの引力、斥力が打ち消しあい、結局電磁気力がないように見えてしまうからである。
それに対して、重力は打ち消すものが存在しないため、十分離れた、と思えるような銀河からもほかの物体が影響を受ける。

だから、最近スパコンで宇宙の進化の様子のシミュレーションなどを計算しているが、これらは重力だけを星間の相互作用として計算機を走らせているらしい。
宇宙を議論するには、やはり重力の効果は大切なのだと思い知らされた。

重力がらみだが、3つ目には三鷹天文台でもしっかりとした観測のできる、観測装置の重力波観測装置(TAMA300)を見せてもらった。
これは、アインシュタインの一般相対性理論の帰結として導き出された、「重力波」というものの存在を証明する装置である。
しかし、この装置、超新星爆発やブラックホール同士の衝突などといった、宇宙でもあまり起こらないイベントが起きないと観測できないようなそうちでもある。
近く(調布駅までバスで15分もの距離だが)を走る京王線の揺れにさえも検出してしまうらしい。
そのため、この装置もバックグラウンドノイズが大きく、コンピューターと人間の能力を駆使して、ノイズと必要なデータの分別が必要となる。
ノーベル賞受賞者の小柴さんの実験と同様、観測データの分析がとても大変なようだ。
重力波観測装置の概要

さて、この装置の様子を図示してみた。
(画像ソフトで書けばいいのだが、新しいスキャナーを買ったこともあり、それを使いたくて手書きで書いてみたものの字が汚すぎますね。すみません。。。)

物理をやっている人にとってみればわかるとおりこれはマイケルソンモーレーの実験装置そのものである。
皮肉であろうか、特殊相対性理論以前には宇宙全体にエーテルという光の波を伝える物質があって、その中を地球が通るため、地表面にはエーテル風という風が吹く、と信じられていたのだが、それを証明するためにマイケルソンとモーレーという人の行った実験である。
この実験は失敗し、当時光の速さはわずかに異なると信じられていたので驚くべき事象であった。
世界中の物理学者はそれでもエーテルがあると考えていたらしいが、これは失敗でなく「光速不変の原理」だ、と述べ特殊相対性理論を生み出したのが、天才物理学者といわれるアインシュタインである。
というのに、今度はマイケルソンモーレーの装置はアインシュタインの一般相対性理論の証明に用いられようとしている。
なんという皮肉であろうか!(笑)
(ただ、装置が同じだけで、今度の場合エーテルの存在の証明ではなく、重力波により空間が歪むことを証明する目的であることは注意が必要。)

この実験は光の干渉を利用してその干渉縞のずれを観測することで、時空の歪みを計測しようとしているわけであるが、観測装置はなんと300mのトンネルが直角に二本掘ってあり、この中を超高真空の直径40cmものパイプが通っている。
150mほど歩かせていただいたが、とにかく長い!
すごい大がかりな観測装置である。

約1μmの波長(赤外線)のレーザー光をさらにモードクリーナーという装置で厳密に波長の長さをそろえて装置に打ち込んでいるらしい。
入射レーザーの明るさは10W。
電球にしては暗いと思うかもしれないが、レーザーポインタ一本が1mWで、光線の太さは同じくらいである、ということから考えると、つまりレーザーポインタの一万倍の明るさの光が常に装置の中に打ち込まれている。
まぁ、半径数ミリの範囲に毎秒数十ジュールもの熱量供給がなされる、という見方ができ、どう考えてもこれは恐ろしいエネルギー供給だと実感できるだろう。

さらにこの実験装置の素晴らしいところは、光を再利用していることだ。
反射板に入射するまでの光線を赤色で書き、反射板で反射した光線を青色で書いたのだが、光分配器を通過した光は二方に向って分岐される。
しかし、うまく距離を調整することで、干渉がない間は空間の歪みが起きない限り検出器側に光が漏れないように作ることができる。
そうすると、空間の歪みが起きた時に、突然明るい光が検出器に現れて空間の歪みが観測できるだけでなく、光を再利用できることに利点がある。
光分配器でのエネルギーの収支が一定なことから、検出器にほとんどエネルギーが流れず、代わりにほとんどがリサイクリングミラー側にエネルギー供給、つまりレーザービームが流れ込むことになる。
ここでリサイクリングミラーの登場である。
リサイクリングミラーは一往復してきたレーザー光線をもう一度分岐器に撃ち戻すことができる。
レーザービームのリサイクルである。
うまくリサイクリングミラーを調整することで、入射レーザー光の5倍近くの明るさの光線が常に検出装置の内部に飛び交わせることができているらしい。
できるだけ実験の精度を向上させることで、良い結果を得ようとする重力波研究室の努力はすごいものだと思う。
何かいいイベントが発生することで、重力波の存在を確認し、さらに重力波天文学の発展も期待したいと思う。
(重力波により、電磁波(光も電磁波の一種)と全く異なる性質をもち、いままで電磁波観測では観測できなかったビックバン直後から約38万年の間の現象をも観測できると期待されている。)

今日は楽しい一日であった。 少し冷えてきていた宇宙熱がヒートアップしそうだ。
(↑宇宙熱という熱が存在するのではなくて、僕の宇宙への好奇心が盛り上がりそうだということ。念のため。)
またさまざまな宇宙開発の分野に目を向けていけたらいいなと思う。

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