イギリスの大学の任期付き研究員(現地採用)が有料特急コースでVISA(就労許可)の更新手続きをしようと思ったら制度のはざまにハマった話

大変ありがたい話なのですが、現在研究員(ポスドク)として働かせていただいている現在の職場で、僕を含めた研究プロジェクトの研究費が取れたため、任期が延長されることとなりました。もともとは2019年の4月から2021年の4月までの2年間の契約でしたが、新しい契約は2024年の9月までということで3年強の延長となります。とはいえ、任期付き契約であることには変わりませんのでどんどん研究をして、成果を出して、新しいポジション(職場)を見つけていかなければなりません。研究者ってのは個人事業主みたいなものですから、先のことは見通せませんので、今できることを常に精一杯努力し続ける必要があります。コロナ禍で2020年はなかなか思うように研究がすすめることが出来なかったにも関わらず、こうやって任期を延長できるように上司らも努力してくださったこと、本当に感謝するばかりです。(でも、3年任期が伸びるからといって漫然と過ごすべきではなく、どんどん自分でも研究費やフェローシップなどには応募していけよ、と発破をかけられているのでがんばります。)


これよりしばらくはイギリスから外に出られない(出たら帰ってこられない可能性が生じる?)のでイギリスでがんばります。というと大げさだけど、まあただの在留資格の更新手続き。 そもそもしばらくずっとイギリスにいるので、特になにか変わるわけじゃないけど。

さて、ということでイギリスの就労許可を延長するひつようがでてきます。更新の手続はイギリスから行う必要があります。とはいえ、殆どはオンラインで出来るとのことです。更新するのはBRPと呼ばれる、日本にいる外国人が携帯する在留カードと同様のカードの新しいものを作ってもらう、というのが最終目標となります。

さて、皆様の記憶に新しい通り、イギリスはEUから離脱を行い、2020年大晦日まで設けておりましたBrexitの移行期間も終了し、完全に独立しました。一つの大きな変更点が、国境での人の行き来の管理方針の変更です。これまでのように、入国の目的ごとにカテゴリーを分けるものから、点数制のビザ制度になりました。就労許可は、これまでTier2と呼ばれるカテゴリーのビザだったのですが、2021年1月より、新しいSkilled Worker visaになりました。これが思った以上に厄介だったというのが2月21日現在の印象です。

そもそも、なぜこのように、外国人の在住には審査が必要なのか。それはもちろん「本来イギリス人が働けたはずの仕事を外国人に奪われたら困る」ということなわけです。イギリスの大学(院)への留学(これも審査基準は厳しいですが)、イギリス人との結婚や、家族経営などの小規模なお店での仕事などの明らかに、その特定個人がイギリスに在住する必要がある、というような状況を除いて、一般に外国人が他国で仕事を得る、ということにはそれ相応の理由が必要で、その理由の度合いをわかりやすく点数化しましょうというのが新しい制度の狙いです。具体的には「年収」「学歴(博士号)」であるような条件や、もしくはアスリートや投資家などの高い専門性を保有していることが必要です。年収制限というのは、要するに安い労働力を目的とした人は入国させない。(日本のようなデフレ思考?に基づいた、東南アジアなどからの技能実習生と呼ばれる低賃金労働者の制度と発想が全く逆ですね。)高い所得の労働者というのは、それだけ社会への貢献度が高いわけで、だからこそイギリスに来て働く必要性があるということになります。PhDを持っている人は、年収制限の下限値が10~20%下がります。なんとも不思議な話なんですが、博士号を持つような素晴らしい人であれば年収の制限は軽くしましょう、と。博士号保有者を安く雇おうという魂胆ではないことを願いたいですが…。(多分複数の国の研究機関・大学でそれぞれが折半して給料を支払うようなケースを取りやすくしているんだろうと信じたいです。)

で、その年収の制限に加えて学歴の条項があるっていうのがあるのが今回の問題の発端でして、複雑なことになってしまいました(後述)。


ビザ更新はビザが切れる3ヶ月前より申請を行うことが出来ます。更新手続きは2月の12日からできます。それを見越して1月中旬から人事に問い合わせのメッセージを送りできる限り速やかに手続きをしてもらおうと挑戦しました。前々からだいぶお願いしたとはいえ、結局は人事の方で契約更新に時間がかかり(でも早かった)大学側が用意しなくてはならない書類であるCoS (Certificate of Sponsorship) を受け取ったのが2月18日。イギリス流のアツい?メールを送って定期的に状況確認した結果、事務方にも重要性を認識してもらって急いでもらった気がします。ありがたい。

いろいろと事情があって急ぎでVISA更新をせねばならず、イギリスの事務の人にもご協力いただき、就労の受け入れ証明書が発行された。ということでVISA申請を行いましょう。というところ。これがなかなか骨が折れる。 そしてこの先3月にかけて待ち構える多くの書類書き、ちゃんと全部クリアできるのか?

ところでビザの申請は申請費用がとてつもなく高いことが有名です。就労予定の期間が3年を超えた瞬間に更新費用が610ポンドから1220ポンドに跳ね上がるので3年分で書類を用意してもらいました。3年経ったらILR(ざっくり言えば永住権だけど、一旦イギリスの外の国に住むと権利を失うって仕組みなので厳密には永住権ではない。在留無期限許可証といったところ。)を取得可能なはずなのでこれが最小費用にする解。(費用一覧はこちら。)他に必要な費用として一年あたり624ポンドのHealthcare surchargeとBRP (Biometric residence permits)と呼ばれる在留カードに対応したものの発行費用19.20ポンドがかかる。3年の更新のために40万円近く払うわけですね。日本だと数次有効ビザでもたったの6000円ですむ。要するに手続きにかかる人件費は税金で出す(当然在留者も払うのでそれでペイするとみなす?)のか、それとも申請者が費用負担するのかという発想の違いなんでしょう…。

今回は(二年前もバタバタだったけど)VISAの手続きの直後に大事な出張の予定があるので、特急サービスに課金します。5営業日で結果を出してもらうのには500ポンド、翌営業日に結果が欲しいなら800ポンドを支払う。最速の超特急コースだと、合計でしめて49万円弱(!!!)。イギリスのビザ申請はとてつもなく高い!!でももういいよ。今回は状況が状況なので超特急で払ってやろうじゃないか。(※イギリスに2年前に来ると決まったときも急ぎで取得が必要で、特急コースで課金。渡航予定日の2日前にVISAを受け取るというギリギリコースでした。これもいつか書かないとな。)

まずはWeb上のフォームで必要事項を記入して送る。細かい内容まで書かないといけないから細心の注意を払う。これまでに住んだ場所や借家の場合大家さんの情報なども必要となる。さらに過去10年間の日本国外への旅行や出張をすべて書けと言われる。これが地味に辛い(でもEUやアメリカの滞在はかかなくていいらしい。新規申請のときは全部書いたわけで‥)。特に入国時にスタンプを幼い国も増えてきた(香港など)のでしっかり記録をとっておく必要がある。

そういえば出生地を書かないといけないんだけど日本人の場合本籍地が戸籍に使われてパスポートにも記載されるので、なかなか面倒。僕の場合、書類上はPlace of Birth欄は “Tokyo, place of birth Yokohama” と書かれている。そう、僕は横浜生まれです。川崎育ちですが、市境近くに住んでいたため産婦人科は横浜市だったという話。

とりあえず調べつつ2時間かけて項目を埋めたので休憩。PDFにして書き出して見直しましょう。A4で10ページ分の書類になった。

と思ったのですが、さてここに来て問題が‥。

今年から始まった新しいVISAの制度、点数制になったため前回の申請とちょっと異なるんだよね。PhDを証明できると点数を稼げるので、給与基準額の制限が低くなるわけですが、そうすると手続きが煩雑になるため事務方から「Do you have an academic PhD?」にNoと答えろと言われたわけでこれに困惑する‥
おかしいでしょ。TitleはDoctorなのにMedical DoctorでもなくてPhDも持っていないって申請するっていう状況…。この画像を事務に送って問い合わせてみよう。

PhDは持っていますか?という問いにNoと答えなさいというのが大学側からの連絡事項に明記されている。でもこの聞き方はさすがに、なんて答えればいいのかわからんですよ…。

ここで、大学側がイギリスの内務省(HomeOffice)に提出した書類であるCoSを見てみる。

なるほどね。PhDは必要するかどうか、という質問にはNoと書いてある。でもね、職務内容の詳細を記載する欄にはPhDが必要ですってはっきり書いてあるんですけどね…。


とりあえずPhD持ってます、とチェックマークつけて申請をすすめてみると、「必要書類一覧」のページでPhDの証明書が必要です、と表示される。ちなみにEU圏内でPhDを取得した場合には各国共通の証明書の番号が発給されるようでその番号を入力するだけでいいらしい。PhDの社会的な価値が認められていると取るべきか、まずは共通の制度からちゃんとしっかりしましょうということを重んじるのか、いずれにしてもヨーロッパらしさなのかなあとは感じますね。

で、EUの外でPhDを取得した場合は当然共通番号なんて存在しませんので、学位証明書をもとに、政府指定の専門機関で別途審査を行うという仕組みなようです。それにどれくらい時間がかかるのかわからない上、お金もとられるという…。当然ですがPhD持っています、という問いにNoと答えていれば必要とする書類は、パスポートと在留カード(BRP)だけでよい、となるわけでして。ううむ。これは確かに人事の人がPhDの項目についてわざわざコメントする理由もわかる…。現段階で2月18日の木曜夜。ここで余計なことをしてVISAの発給が遅れることは避けたい。人事に状況を説明するメールを送って、返信を待つことにする。


週末があけた月曜日、人事から返信が来た。「金曜日はお休みだったから返信おそくなってごめん!(意訳)」と。うんうん。週末の二日間は何をすればいいのかわからない、という焦りような気持ちもありましたが、とはいえ月曜朝に返信が来るのはとても優秀。ありがたい。返信には「わかりにくいとおもうけど、これでCoSは必要十分に書かれていて、PhDは持っていないにチェックマークつけて申請する、ということが正解です。」と。確認もとれたので何度目かわからない書類の入力内容のチェックを行い、あとは一気に手続きをすすめる。


まずは保険料サーチャージ(外国人には健康保険料が上乗せされるルールがあって、それの上乗せ額の支払い)。30万円弱の支払い。初手で感覚を狂わせてくるのは前回、初めてVISA申請をしたときと同じ。今回はもう狂わせられないぞ!!

その次に出てくるのが、VISAの申請費用の支払い項目。そう。ここで3択のクイズがでてくるのです。

  1. 標準コース(審査結果がでるまで申請より8週間程度):8万円(値段はだいたい)
  2. お急ぎコース(審査結果がでるまで5営業日以内):18万円
  3. 超特急コース(審査結果まで通常24時間以内):23万円

この地点ですでに30万円支払っているところに上乗せで払うって言わるともう、お急ぎ料金なんて誤差なんですね(感覚ブレブレ)。悩むこともなく超特急コースを選択。


やっとこれで申請完了です〜〜!!これで、無事あとは1日待つだけ!

……

って思うでしょ?ところがどっこい。申請のためにパスポートのコピーなどを提出する必要があるわけです。実はEU出身の方などは今は専用のスマホアプリで写真を撮るだけでOKってことになっているんですが、日本のパスポート保持者はそれは使えません。写真をWebからアップロード後、原本を持ってVISAの窓口まで行く必要があります。(ちょうど12月に学生ビザの延長更新をした友人から噂を聞いていたので、動揺はせず。)

ということで、窓口の受付予約をしなくてはなりません。

……

ん?

……

窓口は残念ながらヨークには無いので、リーズ、シェフィールド、ハル、あとは遠くなりますがマンチェスター、バーミンガム、サンダーランド、ロンドンに行くことになります。でもどこも2週間先まで予約でいっぱい。この窓口申請が終わらないと審査が開始されないわけで、要するに「超特急コースにしたのに意味がないじゃないか!」と言いたくなりますがこれも想定済み。窓口の予約をWebでできるだけ、他の国でVISA申請を苦戦している人の話を聞く限り、よっぽどよく出来たVISA申請だと思います…。そのかわりむちゃくちゃ高いけど。

知人のすすめ通り、数分おきに更新しては空き状況を確認すると、「お!マンチェスターが水曜日に1枠空いているぞ!」
マンチェスターを予約しようと思って、スケジュールとか場所とかをMapで確認して、さて、予約画面に進もうとすると、
「エラー:この予約はすでに埋まっています」
ああ、そうですね。自分がいけないですね。さっさと予約すべきでした。
まあマンチェスターのところは、すこし待遇がいいセンターで追加で200ポンドくらい費用がとられるところだったのでまあ予約できなかったけどよいとしよう。(窓口によって無料のところとそうでないところがある。でももう金銭感覚狂っているんだけどね。)


で、もうすこし粘ってみたら、25日木曜日にヨークから50kmほど離れたところにある港町、Hull(ハル)の枠が空いたのを見つけました追加料金は70ポンド。さっきより安い。1日遅くなってしまうのが大変残念な気持ちにはなるけれど、もう仕方がない。これを逃しても次が得られる保証はないし、金曜日までに結果が出るとしたら価値は高いのでこれで行こう。

ということで2021年2月22日月曜日現在、予約すべきものは予約したので、あとはパスポートの全ページのスキャンと、誓約書を印刷して署名するなどの作業を、大学のプリンター使っておこなえば、あとは準備完了、となるはずです。無事にビザの更新が終わりますように一緒に応援してくださると幸いです…。


おまけ:

そういえば、いろいろ新しいVISAの制度を調べておりましたら、今年の夏以降にイギリスでPhDの学位を取得した学生は、その後3年間は自由にイギリスで就労等の活動ができるようになるようです。

結論:PhD(博士号)は取得してお得です!でもVISAの手続きでは必要無いことも多いです。

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/949207/6.6991_HO_PBIS_Employers_Guide.pdf

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